先日、A-YOGAの夏合宿にお呼ばれし、「緊張と脱力の悩みを解消する目の使い方」というテーマで講義をさせていただきました。 A-YOGAの皆さんは盛り上げ上手なため、私は大変調子に乗ってしまい、スケジュールは押しに押しました。ごめんなさい。
当日の講義の内容を、あらためてこちらでも整理してお伝えしたいと思います。
「もっと力を抜いて」と言われても抜けなくて困っている方、体の力みの原因がよくわからない方には、特に読んでいただきたい内容です。
パーソナルトレーナーや治療家など、体の専門家として日々クライアントと向き合っている方にとっては、なおさら実践的な内容になっているはずです。
「力が抜けない」というよくある悩みに、目という切り口からアプローチできるようになりますし、現場でそのまま使えるチェック法もご紹介します。
後半では、この理論を体系立てて学べる場についてもご案内しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
なぜ「力を抜いて」が難しいのか
「もっと力を抜いてください」
トレーニングでも、ヨガでも、治療でも、よく使われる言葉です。
でも、言われた本人からすると、
「抜けないから困ってるんですけど……」
という話ですよね。
私は、ここには「本人の意思」だけではどうにもならない部分があると考えています。
その一つが、目の慢性的な緊張です。
視覚性の緊張が慢性化している人は、自分の目に力が入っていることに気づけていません。目に力が入っている状態があまりにも「普通」になってしまっているため、その緊張が体にまで伝わっていることに気づかないまま、脱力できない体で過ごしているのです。
これは意志や努力の問題ではありません。ほとんどの人が意識したことのない「目の使い方」に、体の力みの原因が隠れていることが多いのです。
もう少し仕組みの話をすると、私たちの目は2つありますが、脳の中ではまるで1つのビデオカメラで撮られた映像のように処理されています。脳は、右目と左目の間にある眉間のあたりを自分の中心と感じていて、そこから撮影された映像だと認識しています。ところが、利き目(優位眼)の支配が強くなると、脳の中の「中心」の感覚が優位眼側にシフトしていきます。
中心感覚が狂っていると、動作も前後・左右・回旋の3軸で左右のズレが大きくなり、それを繰り返すことで癖として定着していきます。イメージ通りに動いているつもりでも、実際に行われている運動との間に差分が生まれ、そこに緊張が伴うため、脱力が難しくなるのです。
たとえるなら、全身が映る鏡を見ながら「左眼が体の中心軸に揃うように」立ってもらうと、足腰にかかる負荷が左右で不均等に感じられるようなものです。それくらい、優位眼のズレは全身のバランス感覚に影響しています(自分で試せるチェック方法は後ほどご紹介します)。

近くを見るほど、目には負荷がかかる
近くを見る時の目には主に2つの機能があります。
- 調節:ピント合わせの機能。水晶体(目のレンズ部分)の形を変えることで、近くのものにも遠くのものにもピントを合わせています
- 輻輳(ふくそう):両目を内側に寄せて、近くの対象物に視線を合わせる機能
このうち調節を担っているのが「毛様体筋」という筋肉です。そして、ピントを合わせる本体である水晶体そのものにも、年齢による変化が起きています。
水晶体は髪の毛や爪と同じように血管を持たない組織で、死ぬまで新しい線維(細胞)を作り続けます。しかも新しい線維は外側に加わっていき、古い線維は中心へと押し出されていくため、年齢を重ねるほど中心部の密度が高くなり、硬く、復元力(弾力)の乏しい組織へと変化していきます。
この水晶体の硬化によって、毛様体筋が緊張を緩めても水晶体が元の丸みに戻りにくくなり、調節力が少しずつ失われていきます。
一般的には40代後半あたりから「手の長さが足りない」と感じる場面が増えてきます(いわゆる老眼です)。
ただし、これはあくまで平均的な話。遠視系の人は、もっと早い段階で調節力の不足を感じ始めます。
そして文献的には、実は「軽度遠視」の人が最も多いとされています。つまり、昔からメガネを必要とせず、視力検査でもいつも良好な数値が出て「自分は目がいい」と思っている人ほど、実は軽度遠視の傾向を持っていて、視覚性の緊張が起きやすい素質を持っている可能性がある、ということです。「視力自慢」の人ほど要注意、というのは意外に思われるかもしれません。

近づくほど、負担は跳ね上がる
調節力は「D (ディオプター) 」という単位で表され、これはピントが合う距離(メートル)の逆数です。逆数は掛け合わせたら1になるというものです。
たとえば、
・1D=1m先にピントが合う
・2D=50cm先にピントが合う
・5D=20cm先にピントが合う
・10D=10cm先にピントが合う
ここで注目してほしいのは、「1D分の距離の変化」が、近づけば近づくほど小さくなっていくということです。1→2Dの間には50cmの差がありますが、5→10Dの間はたった10cmの差しかありません。同じ「1D分の負担増」でも、近くを見れば見るほど、ごくわずかな距離の変化でものすごい負担が目にのしかかるということです。
近づけば近づくほど、少し距離が変わるだけでも必要な調節力が大きく変化する
たとえば、うつ伏せになってスマホを覗き込むような姿勢。あれは目にとってはとんでもなく近い距離にピントを合わせ続けている状態で、非常に強い調節の緊張を強いられています。
米国のOEP(視覚発達に関する研究機関)でも、近くを見る作業(近業)こそが視的ストレスの主な原因とされ、視覚ストレスの9割以上が調節に関わる問題だという分析があるほどです。
こうした緊張があまりに日常的になっているため、多くの人はそれが「緊張している状態」だとすら気づかないまま過ごしています。結果として、体にも力みがあることに気づけずにいるのです。
(この理論をじっくり体系立てて学べる場を、10月に大阪、12月に東京でご用意しています。詳細は記事の最後でご紹介します)
もう一つのポイントが「両目を寄せ続けること」
近くを見るときには、ピントを合わせるだけではありません。
両目を内側へ寄せる必要があります。
これが輻輳です。イメージとしては、
「近くを見る」
↓
「ピントを合わせる」
+
「両目を内側へ寄せる」
という2つの作業を同時に行っているわけです。
これが長時間続けば、眼精疲労につながることがあります。
そして、人によってはここにさらに別の問題が加わります。
それが、
「そもそも両目が自然に揃いやすい位置にいるのか?」
という問題です。
両目が完全に同じ方向を向き続けるためには、眼球を動かす筋肉だけでなく、脳による細かな調整が必要です。
目の位置関係にズレがある人では、そのズレを脳が補正しながら両眼視していることがあります。
外から見ると何も問題がない。
でも本人の中では、常に「両目を揃えるための努力」をしている。
こうした状態は、見た目だけではわからないことがあります。
講義でも「斜位」というものを紹介しました。
両眼視はできているけれど、その状態を維持するために神経的な緊張を使っているケースです。
そして私は、こうした眼球の位置や両眼視の努力が、頸部や姿勢、全身の緊張パターンとして現れる人がいると考えています。
眼球の内寄せと身体の内側へ寄せる運動がリンクするようなパターンもあります。
もちろん、これは「輻輳したら必ず股関節が内転する」という単純な話ではありません。
しかし、目と身体は別々に動いているわけではなく、
目の使い方が、身体の使い方にも影響する
という視点を持つことは、とても重要です。

優位眼と中心感覚のズレ——自分で試せるチェック
ここからは、実際にセミナーで行ったチェック方法の一部をご紹介します。
前段階の説明がないので、あくまで簡単なものの一部です。
中心感覚チェック
- 鏡の前で目を閉じ、片手あるいは両手を伸ばして鼻の前20〜30cmの位置にペンを立てる
- 目を開けて、ペンが自分の真ん中に位置しているかを確認する
- ズレていたら真ん中に修正してから目を閉じ、数回呼吸をしてからもう一度確認する
- 反対の手でも同じように行い、右手→左手と繰り返す
多くの方が、想像していたよりも「真ん中」が左右どちらかに大きくズレていることに驚かれます。
これは脳の中心感覚が引っ張られているサインです。
ブロックストリング
ブロックストリングと呼ばれる紐にウッドビーズを通したものを講義では使いましたが、別に普通の紐でも構いません。
片手を鼻の前に、もう片方の手を自分の中心と思うところに置きます。
- ブロックストリングの場合は、真ん中あたりにある玉を見ます。
- 普通の紐の場合は、紐の真ん中あたりに何か印を入れ、そこを両目で見るようにしてみてください。
中心感覚のズレ、優位眼の支配性が強い場合、鼻の前に置いた手が優位眼側の前にずれて構えることが多くあります。遠くに構えた側の手が右目や左目の前に位置することからも支配性を予測できます。

↑右目支配が強すぎるとこの様になりやすい
「自分の真ん中」が、本当に真ん中とは限らない
私たちは右目と左目から別々の映像を受け取っていますが、それを脳の中では一つの空間として統合しています。
イメージしやすく言えば、2台のカメラから入った映像を、脳が一つの「自分の視点」としてまとめているようなものです。
この統合された視点は、視覚の世界では「サイクロピアンアイ」と表現されることがあります。
そして、左右の眼の使い方や優位性などによって、「自分の真ん中」の感じ方に偏りが出る人もいます。
自分の身体の中心をどう感じているのか。
空間の中で、自分をどこに置いているのか。
そうした身体の正中感覚や空間認知を考える一つの入り口になります。
講義では、このチェックのあとにブロックストリングなどで再評価し、中心感覚、呼吸、眼の脱力感覚がどう変わるかも体験していただきました。

↑ブロックストリングをどの様に構えるかをみんなで観察
周辺視野と姿勢の関係——少し踏み込んだ話
姿勢制御について、教科書的には「体性感覚70%・前庭覚20%・視覚10%」という比率で語られることがあります。この数字だけを見ると、「視覚が10%しか関与していないなら、視覚が多少狂っても姿勢はその分しか崩れないはず」と思うかもしれません。しかし、実際はそうではありません。
近年、VR空間や動く映像(オプティックフロー)を用いた姿勢制御の実験が行われています。床が完全に固定されていて体性感覚が正しい状態にあり、耳石器も動いていない(前庭覚も正しい状態)にもかかわらず、視覚映像をわずかに揺らすだけで、人間の体は映像に同調して大きく揺れてしまうことが確認されています。
これは、脳が体性感覚よりも視覚情報を優先して姿勢を書き換えている可能性を示しており、視覚の潜在的な影響力は、静止時の教科書的な数字をはるかに超えていると考えられています。
近年では、姿勢の制御に視覚が50%以上とする意見も目にするようになりました。
現代のライフスタイルはこの傾向に拍車をかけています。平らな床の上で座りっぱなしの生活や、スマホの狭い画面を凝視する習慣が続くと、足裏や関節からの体性感覚フィードバックが過小評価されるようになり、脳は手っ取り早く情報が得られる「視覚」に過剰に依存するようになります。
ここで言う「視覚」とは、視力の良し悪しではなく、周辺視野から入ってくる「空間の傾きや広さ」の情報のことです。
現代人はスマホの凝視などで中心視に偏りすぎていて、周辺視を使った空間認知が苦手になりがちです。そして周辺視による空間認知がうまく働かないと、脳は姿勢を保つために、さらに中心視で「どこか1点」を凝視してバランスを取ろうとする——という悪循環に陥ります。
視野が狭くなること(トンネルビジョン)は、心拍数や血圧の上昇、筋緊張の増加とも関係していることがわかっています。
「視覚が乱れる」というのは、単に見えづらくなるということではなく、全身の緊張状態そのものに直結しているのです。
「もっと力を抜いて」ではなく、「力が抜ける目の使い方」をつくる
こうした理論を踏まえて、当日は「脱力が苦手な人が、視覚への介入によってどのように脱力を獲得していくのか」というテーマで、理論の説明と実践を皆さんと一緒に行いました。
各種デバイスを使って、目に力が入る感覚、目の力が抜ける感覚、目が内に寄る感覚、離れる感覚を実際に体験していただきましたが、これらの感覚が「ある人」と「ない人」は、だいたい半々くらいだった印象です。この感覚が乏しい人は、やはり視覚性の緊張を受けやすいということになります。
脱力が苦手な人に、「もっと力を抜いてください」と繰り返し言うだけでは、なかなか変わらないことがあります。
なぜなら、その人にとっては、
「力が入っていること」が通常状態だからです。
だから、「体の力を抜く」だけではなく、
「目の使い方を変えることで、身体が自然に力を抜きやすい状態をつくる」
という発想が必要になります。
具体的には、
・一点を凝視しすぎず、周囲を広く感じる
・輻輳の筋感覚、調節の筋感覚の獲得
・近くばかりを見続けない
・遠くを見る時間をつくる
・視覚に依存しないための体性感覚の強化
・呼吸の改善
・両眼視や輻輳、調節の状態をチェックする
・眼球運動を向上させることのメリットと神経の変化
などです。
講義では、ソフトアイエクササイズ、周辺視野の注意課題、反応課題、周辺視野を使ったVOR、ミラーウォーク、バランス課題、眼球運動課題、脱力の視覚負荷など、さまざまな実技も行いました。
周辺視野や眼球運動については、単に「視力を良くする」という話ではありません。
目を動かしながら、周囲の空間を感じる。
自分と環境との位置関係を感じる。
そして、視覚・前庭覚・体性感覚を一緒に使っていく。
そうやって、身体が「見て、感じて、動く」ための情報処理を整えていきます。
目から身体を見ると、今まで見えなかったものが見えてくる
身体の緊張や姿勢の問題を見るとき、
筋肉を見る。
関節を見る。
呼吸を見る。
もちろん、どれも大切です。
でも、そこにもう一つ、
「視覚を見る」
という選択肢が加わると、見える景色が大きく変わることがあります。
「なぜ、この人はいつも右に力が入るのか?」
「なぜ、この人は首を傾けたほうが楽なのか?」
「なぜ、目を開けているときだけ身体が緊張するのか?」
「なぜ、目を閉じると動きが変わるのか?」
「なぜ、見る場所を変えただけで姿勢や痛みが変わるのか?」
こうした疑問に対して、
筋肉だけではなく、視覚という“感覚入力”から考えてみる。
これは、トレーナーや治療家にとって非常に面白い視点だと思っています。
「もっと力を抜いて」
と言う前に、
「この人は、なぜ力を抜けないのか?」
を考える。
そして、その答えが身体ではなく「目」にある可能性も考えてみる。
それが、今回の講義で一番お伝えしたかったことです。

↑タイミングが合わず薄目の後藤玄
もっと視覚について知りたい方へ
これら内容は、ほんの入口にすぎません。
「目と身体って、そんなにつながっているの?」
「実際にどう評価するの?」
「自分のクライアントにも使ってみたい」
という方には、今後開催するセミナーで、さらに実践的にお伝えしていきます。

2026年10月24日(土)・25日(日)大阪
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2026年12月5日(土)・6日(日)東京
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